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「LGBT票」はどこへ行った(第26回参院選)

 2022年7月10日に投開票された第26回参議院議員選挙は、自民が単独で改選過半数を確保し大勝すると共に、改憲勢力が3分の2を維持しましたが、野党は日本維新の会が改選議席から倍増したものの、立憲民主党、共産党及び国民民主党は後退する結果となりました。


 今回の参院選について、LGBTに関わる分野に限定してお話するならば、7月4日に自由民主党本部前で行われたデモ活動が記憶に新しいことと思います。


(YouTube : Stand for LGBTQ+ Life 自由民主党本部前抗議行動)


 このデモ活動では、「LGBT差別をしない政党や候補者への投票」が求められ、現役のLGBT国会議員や日本維新の会を除く野党のLGBTにかかわる候補者やその代理人が登壇し、自己アピールを行いました。


 今回は、この参院選の選挙結果(7月11日10:00現在)を参考に、性的マイノリティがどういった投票行動を見せたのかを分析すると共に、「LGBT票」とは一体なにかを、考えてみたいと思います。


LGBT候補者並びに立憲民主党の選挙結果(NHKウェブサイト 参院選特設サイトより)

LGBT候補者

(敬称略)

所属

選挙区分

個人得票数

デモ

参加有無

選挙結果

石川大我

立憲民主党

非改選

参加

斎木陽平

こどもの党

選挙区(東京)

50,661

参加

落選

依田花蓮

れいわ新選組

比例

14,837

代理人参加

落選

村田峻一

社会民主党

比例

2,519

参加

落選

松浦大悟

日本維新の会

比例

20,222

不参加

落選

 知り得る限りにおいて、LGBTにかかわる候補者は全て落選しています。

 また、現役の国会議員がデモに参加した立憲民主党は、改選議席23から獲得議席17へと大きく後退しています。


 私は、リベラル色の強いLGBT活動家とは一線を画した活動を続けてきた松浦候補が、LGBT運動を支持していない性的マイノリティ当事者の受け皿になり、唯一当選できるのではないかと予想すると共に、彼が相当数の個人票を獲得した場合、「LGBT票」の存在を証明する結果になるだろうと考えていました。


 また、依田候補については、れいわ新選組の情勢が複数の議席を獲得すると予想されていたため、個人名での投票が10万票程度あれば、当選のチャンスがあると考えていました。


 しかし、選挙結果をみる限り、LGBT活動家としての活動内容のみならず政治スタンスという投票を促しうる要素が、必ずしも投票行動と直結せず、影響を及ぼすわけではないという結果になったと受け止めています。


「LGBT票」はどれくらい存在するのか

 民間の調査によると、日本には、人口の約8%前後の性的マイノリティが存在すると言われています。

 つまり、約1.25億人のうち、約0.1億人が、LGBTだと言われているのです。


 その1,000万人のうち、有権者数は、総人口の約85%なのを参考にすれば、約850万人がLGBTの有権者ということになり、今回の投票率52.05%と同じ割合のLGBTが投票したとすると、約440万人のLGBTが投票したことになります。


 その440万人において、今回の改選議席125のうち、49が野党等の議席だったことから、LGBT有権者の39.2%が野党に投票したとすると、約173万人(人口の約1.4%)が、野党に投票された「LGBT票」だと仮定できます。

(本来、選挙区、比例、個人票それぞれの票の分析を行ったうえで、より正確な予想値を出すべきですが、そのようなことをするまでもなく、想定と実態が乖離していることが分かるので、今回は、このレベルでとめています。ご了承ください。)


 尚、アライの存在を考えれば、この173万人以上の「LGBT票」が、今回の選挙では存在したと考えても、差し支えないでしょう。


LGBTはLGBTにかかわる候補者に投票していないという現実

 7月4日のデモ活動において、主催者はじめ複数の登壇者が「LGBT差別をしない政党や候補者に投票しよう」と呼びかけたにもかかわらず、誰一人としてLGBTにかかわる候補者は当選せず、また、ごく少数の個人得票数しか獲得できていないことが判明しました。


 各候補者の選挙活動を知り得る限りで見てみると、どの候補者も、LGBTに関する事柄をセールスポイントにしていました。


 そのような中で唯一、選挙区(東京選挙区)に立候補した斎木候補は、「すべての子どもに、1,000万円の給付を実現」するなどの政策を挙げた結果か、社民党候補やNHK党候補(共に落選)に肉迫する得票数を獲得していることが注目されます。


 ここから読み解くならば、性的マイノリティも、他の属性と同様、候補者が打ち出す政策やその人柄を見て、投票していることが分かります。

 つまり、候補者がLGBTだからとか、LGBTフレンドリーという理由で、LGBTにかかわる候補者に一票を投じるのではないということです。


 また、「コンサバvsリベラル」や「自民党vs野党」というような単純な対立の図式にも影響されないことが、今回の選挙結果で明らかになったと考えます。


 今回の選挙結果は、今後、性的マイノリティであることをカミングアウトしたり、LGBTフレンドリーであることを宣言したうえで国政選挙に出る場合、自身がLGBTであることやLGBTフレンドリーであることは、必ずしもセールスポイントにはならないということを意味していると理解します。


 そして、しっかりとした政策を打ち出さないと、当選は難しいということを、明確に示していると考えます。


 LGBTという追い風は吹かない(存在しない)、という現実が、突き付けられたのです。


本当に8%も「LGBT票」は存在するのか

 誤解されているようですが、男性と女性とは別に、8%の「LGBT票」が存在するのではありません。


 男性と女性の票の中に、性的マイノリティの持つ票が含まれているのです。


 100が108になることはないのです。


 つまり、LGBTに耳障りの良いことを言ったら、8%も得票が増えるなどと考えるのは、間違っています。


 性自認が、特に女性の権利や安全を脅かす、つまり性自認の悪用(自称・詐称・偽称)による犯罪や迷惑行為を排除できないことが問題となっているように、LGBTだけでなく、他の属性の有権者の利害と調整を図りながら、一人でも多くの有権者に支持される政策を打ち出さないといけないのです。


 それは、LGBT政策は、LGBTのために用意するのではなく、全ての有権者に向けて用意されなければならないことを意味します。


 日本の社会をより良いものにするためにも、LGBT政策に関するパラダイムシフトが必要であり、それは、LGBTではない国民のためにLGBT政策を用意するという視点に到達しないといけないのです。


 今回、LGBTにかかわる候補者があまりにも少ない得票数しか得られなかったことは、多くの疑問を浮き彫りにするものです。


 今回の選挙結果によれば、想定されうるLGBTの有権者数並びに投票者数と比して、余りにもLGBTにかかわる候補者への投票数が少なすぎます。


 LGBTは他の属性と比してリベラルが多い、とも言われてきたにもかかわらず、です。


 だからといって、極端に与党へ投票したわけでもないでしょう。


 また、個人名ではなく政党名で投票したとも考えられません。


 もし、LGBTが候補者名ではなく政党名で投票したのならば、余計に、LGBTにかかわる候補者である必要性が低下することになります。


 なぜなら、政党としての “LGBT政策” が歓迎されるものであれば、候補者がLGBTであおうがなかろうが「LGBT票」が手に入るという図式が成立するからです。


 また、何かあれば速やかにデモ活動をするLGBTなのですから、政治に興味がないLGBTが他の属性と比して極端に多いということもないはずです。


 従って、投票しなかったり、様々な理由により白票を投じた当事者が多いという仮説も成り立たないと考えます。


 また、投票券に性別欄があることにより、投票できない、あるいは投票が憚られると、トランスジェンダーに配慮して性別欄を削除する選挙管理委員会も増えているようですが、投票券に性別欄があることが、性的マイノリティ全体の投票行動に大きく影響しているとも考えられません。


 LGBTは、その境遇から、地方都市よりも東京や大阪をはじめとする都市部に居住する傾向があると言われてきました。


 東京の隣県、都市部の地方公共団体のひとつである埼玉県が2021年に実施した「LGBTQ実態調査」によると、この調査で性的マイノリティに分類した人は回答者の3.3%だったそうです。


 諸外国における同様の調査においても、性的マイノリティの割合は人口の3%前後という調査結果が出ていますから、この調査結果は信用できるものと考えます。


 仮に、人口の3%がLGBTだとすると、LGBTの有権者数は約320万人、そのうち野党に投票したLGBTは約124万人と仮定できますが、それでも、LGBTの候補者の得票数は少なすぎるという印象を拭い去ることは出来ません。


 「本当に8%も『LGBT票』は存在するのか」という疑問は、「本当に8%もLGBTは日本に存在するのか」という疑問に直結します。


 今まで、全国レベルの調査は、民間で行われてきましたが、そろそろ、国が主導して、性的マイノリティの実態調査を行うべきではないでしょうか。


 本当に、我々は人口の8%も、日本に存在するのでしょうか?

(2022年7月11日初稿)

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