• 一般社団法人芙桜会 | FUOHKAI

イギリスの平等法は、LGBTに限定したものではない

要旨

 今回は、イギリスの「Equality Act 2010」、日本ではいわゆる “平等法” と言われている法律について、読み解きたいと思いますが、この目的は、“LGBT施策の先進国” と言われる諸外国で、「実際の法律が保護する対象は何か」を正しく理解し、日本において、性的マイノリティに関係する法律を制定するのであれば、その検討段階において、参考のひとつにしてもらうことです。


 結論から申し上げますと、この法律は、LGBTを含む性的マイノリティに限定して差別的取扱いを受けないようにするために制定されたものではありません。

 また、保護される個人的特性が、無条件に保護されているという訳でも、ありません。

 

 念のために申し上げますが、私は法律の専門家ではありません。

 しかし、性的マイノリティに関する部分については、当事者の一人として、現地の仲間の助言も得ながら、お話したいと思います。

 また、最近、“LGBTが差別的取り扱いを受けないために、平等法が必要” という話を聞くにつけ、「どうすることによって、真に平等な社会が実現するのか」を、皆さんと共に、考えていきたいと思います。


 尚、今回の記事において、Equality Act 2010の原文と日本の内閣府が翻訳して説明している内容については、以下のウェブサイトを参照しています。


平等法原文:https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2010/15/contents

内閣府説明:https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/h23kokusai/12-eng1.html

Equality Act 2010の目的とは

 この法律の正式名称を読めば、「社会経済的不平等の削減が望ましいという認識の下、平等に関する法律を現代社会に適合したものに改めるべく、特定の個人的特性に関連する差別およびハラスメントの大部分につき条項の改訂や、家族関係に関する権利と責任に関する法律を修正する規定を定めるとともに、新たな義務、職務や禁止される行為をも規定することで、機会均等を促進し、これらに関係する目的を遂行するための法律」だということ、もう少し、簡単に言うと、この法律は、職場および社会における差別から人々を法的に保護し、また、以前の差別の禁止に関わる複数の法律が単一の法律に置き換えられたことにより、法律が理解しやすくなり、状況によっては保護が強化されたのです。誰が差別から保護されているか、法律に基づく差別の種類、不当に差別されていると感じた場合にどのような行動を取ることができるかについて、詳しく分かるようになっています。


 ここで重要なポイントは、LGBTに限定したものではないということです。

 性的マイノリティであることではなく、“特定の個人的特性” の一つとして、セクシュアリティのいくつかの構成要素が保護の対象となっているに過ぎず、また、他の保護特性と比べて殊更に強調されているということはないのが、印象的です。


 個人的には、日本国憲法第14条1項の主旨である、「法の下の平等」、つまり、実質的差異を前提として、同一の条件の下では等しく取り扱うこと(累進課税や未成年者に参政権を認めないことなど、実質的差異に基づく合理的な区別は認められる)に似ているように、思います。

参考)日本国憲法

第3章 国民の権利及び義務

第14条 【法の下の平等、貴族の禁止、栄典】

 第1項 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、 政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 (第2項、第3項 省略)

何が保護されているのか

 「第2編 平等:重要な概念」の「第1章 保護特性」において、この法律によって保護される個人的特性が列記されています。


 この法律が保護する個人的特性は、年齢、障害、性別の再指定、婚姻およびシビル・パートナーシップ、妊娠および出産・育児、人種、宗教または信条、性別、性的指向であり、ここでも、“LGBTだから” という理由で保護されるのではないということが、分かります。


 これら9つの保護特性のうち、性的マイノリティに関わるものとして、今回は、特にセクシュアリティに関係する特性と考えられるであろう、性別適合、婚姻及びシビル・パートナーシップ、性別(Sex)、性的指向を取り上げたいと思います。


 1点だけ、申し上げるならば、内閣府が、gender reassignmentを “性適合”、marriage and civil partnershipを “婚姻及び同性婚” と訳しているのは、正確ではないと思います。

 それらの根拠の説明も該当の保護特性において述べつつ、それぞれの保護特性を、細かく見ていきましょう。

7 Gender reassignment

(1) A person has the protected characteristic of gender reassignment if the person is proposing to undergo, is undergoing or has undergone a process (or part of a process) for the purpose of reassigning the person's sex by changing physiological or other attributes of sex.

(2) A reference to a transsexual person is a reference to a person who has the protected characteristic of gender reassignment.

(3) In relation to the protected characteristic of gender reassignment—

 (a) a reference to a person who has a particular protected characteristic is a reference to a transsexual person;

 (b) a reference to persons who share a protected characteristic is a reference to transsexual persons.

7 性別の再指定

(1) 性別の生理学的又はその他の属性を変更することにより、性別の再指定を目的とするプロセス(またはその一部)を受けようとしているか、受けているか、または受けた場合に、性別の再指定という保護特性を有する。

(2) 性転換者とは、性別の再指定という保護特性を有する者をいう。

(3) 性別の再指定という保護特性に関連して—

 (a) 特定の保護特性を有する人とは、性転換者のことをいう。

 (b) 保護特性を共有する人々とは、性転換者の人々のことをいう。


 性別の再指定が、トランスセクシャル、つまり、生物学的性別と自分が認識する性別が不一致(=自分の中で性同一性を欠き、身体違和を有する)であり、それらに対して強い違和感や嫌悪感を抱き、性別適合手術を希望するセクシュアリティに限定したものであると説明していること及び、本文に出てくるphysiological;生理学とは、人間を含む生物の身体の仕組みや生理現象について学ぶ学問の事で、神経生理学や細胞生理学・内分泌生理学など多様な分野に分かれていることからも、アンブレラ・タームとしてのトランスジェンダー(“広義のトランスジェンダー” とも言われる)を意味していないこと、および、トランスジェンダーは、イギリスにおいて、法的な意味でも一般的な理解でも、明確で完全な定義がないということ、そして、そもそも存在するジェンダー承認法;Gender Recognition Act 2004 https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2004/7/contents

が、「異性として生きることが “その人” の対処できる唯一の方法であるような程度(重度だということ)の性別違和を持っている少数の人々を対象とし、異性として法的に認められるために彼らが経験しなければならないプロセスも規定しているという事実もありますから、Gender ReassignmentがTranssexualを保護対象としているというのは、単に異性であるという自己宣言に基づいているのではないと断定して差し支えありません。(確認済)

8 Marriage and civil partnership

(1) A person has the protected characteristic of marriage and civil partnership if the person is married or is a civil partner.

(2) In relation to the protected characteristic of marriage and civil partnership—

 (a) a reference to a person who has a particular protected characteristic is a reference to a person who is married or is a civil partner;

 (b) a reference to persons who share a protected characteristic is a reference to persons who are married or are civil partners.

8 婚姻とシビル・パートナーシップ

(1) 結婚している、またはシビル・パートナーである場合に、婚姻およびシビル・パートナーシップという保護特性を有する。

(2) 結婚と市民パートナーシップという保護特性に関連して—

  (a) 特定の保護特性を有する人とは、結婚しているか、シビル・パートナーである人のことをいう。

  (b) 保護特性を共有する人々とは、結婚しているか、シビル・パートナーである人々のことをいう。


 この条文、“自然さ” が素晴らしいな、と感じ入ります。

 同性婚とか、同性パートナーシップとか、”同性カップル” を強調していないのが、まさに、理想的に映ります。


 ところで、内閣府の説明では、「8.婚姻及び同性婚」となっているのですが、英国では、2005年12月から、同性カップルが異性間の婚姻に準ずるものとして、シビル・パートナーシップを結ぶことができるようになり、その後、2014年12月に同性婚が認められ、また、2019年12月からシビル・パートナーシップが異性間でも認められるようになったことを踏まえると、marriageもcivil partnershipも、異性間及び同性間のものを言っていると考えられます。

 従って、「8.婚姻及びシビル・パートナーシップ」で良いと思いますが、いかがでしょうか。


 日本においては、婚姻について、日本国憲法第24条1項の “両性” について様々な解釈があり、同性婚を巡る議論は尚も活発です。

参考)日本国憲法第二四条【家族生活における個人の尊厳と両性の平等】

1 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。


 余談になりますが、私は、当会のプレスリリースでも述べているように、“両性とは男と女ではなく二人の性であり、同性間婚姻も認められている” とする解釈に賛同するには、まだまだ慎重な議論と共に社会的コンセンサスが必要であり、現状は憲法改正によって同性間婚姻も認められるべきであるとの考えを持っているところ、憲法改正には相当長期間を有すると理解したうえで、フランスのPACSのような、国レベルでの新たなパートナーシップ制度による婚姻に相当する同性カップルの法的保障及びそれによって生じる権利義務の整備が現実的だと考えるようになりました。

 選択肢を限定せず、日本の文化や伝統にふさわしいものが、現実のものになることを願っております。

11 Sex

In relation to the protected characteristic of sex—

 (a) a reference to a person who has a particular protected characteristic is a reference to a man or to a woman;

 (b) a reference to persons who share a protected characteristic is a reference to persons of the same sex.

11 生物学的性別

性別という保護特性に関して、

 (a) 特定の保護特性を有する人とは、男性又は女性のことをいう

 (b) 保護特性を共有する人々とは、同性の人々のことをいう


 生物学的性別がこの法律の保護する個人的特性となっていることにより、Gender Identity(性別認識)はこの法律によって保護される、つまり、平等を担保されるものではないことが、より一層わかると思います。

12 Sexual orientation

(1) Sexual orientation means a person's sexual orientation towards—

 (a) persons of the same sex,

 (b) persons of the opposite sex, or

 (c) persons of either sex.

(2)In relation to the protected characteristic of sexual orientation—

 (a) a reference to a person who has a particular protected characteristic is a reference to a person who is of a particular sexual orientation;

 (b) a reference to persons who share a protected characteristic is a reference to persons who are of the same sexual orientation.

12 性的指向

(1) 性的指向とは、人の、以下に対する性的な指向をいう

 (a) 同性の人

 (b) 異性の人、又は、

 (c) いずれの性の人

(2) 性的指向という保護特性に関して、

 (a) 特定の保護特性を有する人とは、特定の性的指向を有する人をいう

 (b) 保護特性を共有する人々とは、同じ性的指向を有する人々をいう


 非常に興味深いのは、性的指向を、「同性、異性、いずれの性にも向くものである」と明記していることです。(いずれの性にも向かない、という性的指向が含まれていないことに注目)


 とかく日本では、異性に向く性的指向が存在しない(当たり前すぎて、注目されていない、とでも言いましょうか)と誤解されているように思います。

 しかし、性的指向は誰にでも存在するという点において “そもそも平等” であり、着目すべきは、その多数・少数の違いや、その性的指向が思い込みや誤認識でないことを確認することなのです。


 ここでも、ごく自然に、性的マイノリティであろうがなかろうが、平等に扱われていることに、尊敬にも似た、共感を覚えます。

“性別の再指定”と性的指向が保護特性に含まれている、ということの意味を考える

 トランスセクシャル(性別適合手術やホルモン治療を受けた人、受けている人、受ける予定の人)を対象とした「性別の再指定」と性的指向が、性別(Sex)と共に保護特性として指定されていることは、LGBTを含め、性的マイノリティを保護するという目的ではなく、もっと自然的・必然的・本質的な部分における平等、つまり、不変性に根差した考えを下に、この法律が作られたと理解します。


 そのように理解すると、“広義と狭義の二種類存在する” といわれるトランスジェンダーが、保護特性に含まれていない、或いは、保護特性としてトランスジェンダーという言葉を採用していないのは、その定義が定まって初めて、恐らくイギリスにもあるであろう、未だ保護の対象となっていない他の個人的特性と共に、保護の対象となり得るのだろうと推測します。


 一方、日本においては、先にも参考としたように、日本国憲法第14条が「法の下の平等」を保障すると共に、「性同一性障害特例法」が、深刻な身体違和をに持続的に覚えて苦しむ人々のために制定されています。


 日本とイギリスを、それらの歴史的経緯や、宗教観、そして、政治や社会制度の相違点などに触れず、比較するのはいささか乱暴かも知れませんが、双方の国において、憲法や法律によって、近似値の高い法的保障が担保されていると考えても、差し支えないのではないでしょうか。

日本において、「平等」とは何なのか

 日本国憲法がその第13条で「個人の尊重と公共の福祉」を保障しています。


参考)日本国憲法第13条

第3章 国民の権利及び義務

第13条 【個人の尊重と公共の福祉】

 すべて国民は、個人として尊重される。 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、 公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


 これは、“最高の人権価値である個人の尊重及び生命、自由及び幸福追求の権利の保障”、つまり、すべての国民一人一人が最大限に尊重されるのと同時に、他人の人権も侵害してはならないということを言っており、この社会で共生していく上での根幹であり、これを逸脱することは出来ないと、学校で学びました。


 憲法は、そもそも、人権に限らず、すべてを網羅して明記、保障するものではないため、本条の規定を根拠として、社会情勢に応じた新しい人権が主張されてきたと理解しますが、性的マイノリティに関わる人権も、他の新しい人権と同様に、社会情勢の変化によってクローズアップされたものと言えるのではないでしょうか。


 “権利の越境“、つまり、相手の権利を侵食することのない合理的な制限(範囲)、言い換えるならば、社会の中で生きている限り、公共の福祉に反しない限りにおいて、性的マイノリティの「平等」を保障するべき課題は、決して少なくはないと考えます。


 性的マイノリティであろうがなかろうが、すべての人々が、この社会の一員であり、共に暮らしていく仲間です。


 この国を愛し、この社会の中で、皆が平穏に暮らしたいと考え、そしてそれぞれが思う幸福を実現したいと願いながら、生きているのですから、私は、人々の叡智を信じ、必ずや、真の意味での平等が実現することを願っております。

まとめ

 今回、イギリスのEquality Act 2010を読むことが出来たのは、私個人の学びの機会であると共に、この1か月ほどの間、とても注目されている、自由民主党の「LGBT理解増進法案」が、どうあるべきなのか、どうあることが望ましいのか、を考えることもさることながら、“本当に、性的マイノリティに関わる法律を作るべきなのか” という疑問について、考察するのにも、とても良い機会となったように感じます。


 この法律が、性的マイノリティであろうがなかろうが、その自然的・必然的・本質的な個人的特性に基づいて、文字通り、平等にそれぞれの特性を扱っていること及び、そこに至るには相当な苦労があったであろうことが、文面から伝わってきて、文字にすると、“感動にも似た共感” が一番近いと思うのですが、すがすがしさを覚えます。


 その一方で、異性としての自己認識を認める運動;トランスジェンダリズム、セルフIDについては、読者の皆さんもご存知の通り、イギリスでも現在、非常に大きな問題となっており、日本でも “性自認” を、本来の意味(自分が何者であるかを認識すること)ではなく、トランスジェンダリズムやセルフIDの意味(生物学的性別や性同一性を無視して、自分の性別;Genderは、自分で決められるという考え方)として導入されるならば、イギリス同様の問題が起こるであろうと想像するのは、現実に即した妥当な懸念のひとつであると言えるでしょう。


 日本においても、殊更に性的な部分ばかり着目するのではない「新たな局面」、つまり、性的マイノリティであろうがなかろうが、人々が持つ特性を平等に取り扱うことについて、是々非々で取り組む時代がやってくることを、願ってやみません。

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