• 洪均 梁

カミングアウトとアウティングについて 職場編 ①

更新日:2021年3月24日

性的指向・性自認の公表(カミングアウト)と秘密の暴露(アウティング)に関しては、今後も様々なケースを例に、私の意見及び提言を述べたいと考えています。

今回とりあげるのは、「豊島区のパートナーシップ制度を利用している男性が、会社の上司に自分の性的指向を暴露されたことにより、様々な事を経て抗うつ状態と診断され現在まで休職し、会社と性的指向を暴露されたことについて謝罪と補償を要求している」というニュースです。

14年前、会社に性的指向を打ち明けた者として、本件に関して、私の意見及び提言を述べます。

今回のケースは、この原稿を書いている段階では、東京新聞が3回、そしてYahoo!ニュースが2回、関連したニュースを配信しています。

東京新聞

Yahooニュース

“パワハラ法律” と言われる『労働施策総合推進法の改正案』が今年の5月に参議院本会議にて可決されたことで改正法が成立し、令和2年6月1日に施行されたのと時を同じくして、職場での「秘密の暴露」の問題が取り上げられるとともに、LGBT活動家やLGBT団体が「性的指向・性自認(性同一性)に対する嫌がらせや秘密の暴露への防止策を講じることが義務づけられたぞ!」とその啓発に取り組んでいます。(この法律については、いずれ、取り上げようと思っています)

さて、会社に自分の性的指向や性自認(性同一性)を打ち明けることについては、様々な課題があると思います。

私が会社に自分が男性同性愛者であることを公表したのは、2006年6月でした。

公表の主な理由は、当時、「結婚はまだか」「好きな女性はいるんだろう?」「いい女性、紹介しようか」というありふれた質問へ適当に返事をしているのが面倒臭くなってきたのと、「ゲイだということを隠して生きる必要があるのか」という自分に対する疑問が高まり、「自分は自分だ」という想いに至ったことでした。

幸いにも、性的マイノリティに明るい会社でしたので、概ね「それがどうした?」という感じで受け入れられたのですが、やはり、一部には素直にゲイという存在を受け入れられない人はいらっしゃいます。

また、ご自身が性的指向や性自認を公表していないので、例えば、二丁目でばったり出会った時に、「絶対、俺のこと、言わないでよ」と私におっしゃる方やご自身の性的指向を尋ねられても、のらりくらりと巧みにかわし上手くやっている人、そして、誰も尋ねないのだけれど、性的指向が “公然の秘密” になっている人もいらっしゃいます。

このような職場で働いてきて、会社での性的指向・性自認の公表とその暴露について、私なりの考えが形成されてきたと感じます。

なお、職場に限らず、性的指向・性自認については、それを公表する側も公表される側も、「性的指向や性自認を意識しない労働環境」が、性的マイノリティもありふれた社会の一員、人間として何ら違いはないという理解のもとに実現する必要があると、私は考えています。

さて、冒頭でご紹介した記事について、いくつか疑問があります。

性的指向・性自認の公表について

  • 職場において、性的指向や性自認(性同一性)を「業務上必要であるときのみ、自分から自分のタイミングで緊急連絡先との関係を説明する」ことが、物理的に可能なのかどうか

秘密の暴露について

  • パートナーシップ制度を利用している人の性的指向や性自認は、秘密にしないといけないのか

  • 「本人の了解なく」秘密を暴露する基準とは何か

職場環境について

  • この会社は性的マイノリティに対し、オープンな会社(理解のある会社)だったのかどうか

  • 面接時の「性的マイノリティに対しオープンな会社にしたい」という男性の意思表示は会社にどのように受け止められたのか

  • 面接時の男性の意思表示と、労働契約書に緊急連絡先を書く際に、社長と上司二人に性的指向と同性パートナーの存在を“打ち明けた”ことにいささか矛盾を感じる

  • 上司の「同性愛者のパートナーがいることを、パート女性に言った。自分から言うのが恥ずかしいと思ったから、俺が言っておいたんだよ。一人くらい、いいでしょ」という発言はどういったニュアンスのものだったのか

  • 会社が言う「一部認識違い」とは何か

パート女性について

  • なぜ、この女性が男性の性的指向を知ることになったのか

  • 職場の人が避けるような態度を取ったことに問題はないのか

  • 特に、パート女性が男性のことを無視したり避けたりするようになったのはなぜなのか

上司について

  • 上司は、性的マイノリティに対し、どういった理解をしていたのか

  • 上司が言う「善意」とは何か

  • 上司から暴力などのパワーハラスメントを受けるようになった経緯は何か

男性について

  • どういった働きぶりだったのか

  • 男性が言う「国がアウティングについて、大きく取り上げていくしかないのか」の発言の真意は何か

私の意見

正直なところ、この記事だけで、上司の行為を悪質な秘密の暴露だと断じるのは危険だと考えます。

例えば、職場環境、当事者の勤務態度、女性の気持ちの3つの要素を考慮すると、8つのパターンが見えてきます。

  1. 会社が性的マイノリティに理解があり、本人がおねえ丸出しで勤務、女性が男性に好意を抱いていた

  2. 会社が性的マイノリティに理解があり、本人がおねえ丸出しで勤務、女性が男性に批判的な気持ちを抱いていた

  3. 会社が性的マイノリティに理解があり、本人はおねえではない人で、女性が男性に好意を抱いていた

  4. 会社が性的マイノリティに理解があり、本人はおねえではない人で、女性が男性に批判的な気持ちを抱いていた

  5. 会社が性的マイノリティに理解が足りず、本人がおねえ丸出しで勤務、女性が男性に好意を抱いていた

  6. 会社が性的マイノリティに理解が足りず、本人がおねえ丸出しで勤務、女性が男性に批判的な気持ちを抱いていた

  7. 会社が性的マイノリティに理解が足りず、本人はおねえではない人で、女性が男性に好意を抱いていた

  8. 会社が性的マイノリティに理解が足りず、本人はおねえではない人で、女性が男性に批判的な気持ちを抱いていた

ケース1とケース8を比較すると、報道で明らかになっている情報から受ける印象は、全然違ってくるのではないでしょうか。

尚、「おねえ丸出し」と書くと気分を害される方もいるかも知れませんが、私自身、業務中に、わざとおねえっぽい口調で話をしたりすることがありますので、私は「おねえ丸出し」を否定的に捉えてはいませんので、あしからず。

世の中には「おねえ丸出し」で働いている人は少なからずいますし、また、女性っぽい男性に興味がある女性もいます。それが、社会というものではないでしょうか。

さて、性的指向・性自認を職場に公表することについては、性的指向や性自認を会社に公表するにあたり、その行為自体に不安を抱え、勇気を出さないとできないということであれば、する必要はないと思います。

そもそも、性的指向や性自認を公表する義務はありません。

「する必要がない」あるいは「してもメリットがない」という考えも正しいですし、私のように「公表して生きていく」という考えも、またしかりです。

また、公表される側も、極端に「伝えてくれてありがとう」とか、何か公表されることが名誉なことでもあるかのような過度な振舞いをする必要はないと思います。

普通に、淡々とそれを受け入れれば良いのです。

もちろん、公表する側と公表される側の間の人間関係により、同じ発言でも捉えられ方に大きく違いが生じるのですが、例えば、公表されて、「お前、おかまかぁ!」と侮蔑まじりに返すなんてことがあってはなりません。

ただ、福利厚生や職場での悩みの相談など、なぜ性的指向・性自認の公表を行ったのか、その理由を確認は必要だと思います。

大事なのは、公表する側も、やみくもに公表する必要もないし、公表される側もそれに過剰に反応する必要もないということなのです。

なお、公表する側が、性的指向・性自認の公表をしたときに、過度にプライバシーに立ち入るような人間がいるのではないか、と必要以上に心配する必要はないと思います。

なぜなら、職場において、このご時世、性的なことを根掘り葉掘り聞くのは、聞く人間自身のキャリアをつぶしかねない重大な問題であり、また、仕事中に性的なことを話題にすることも、性的な部分を扱う仕事でもない限り、会社組織としてあり得ないのですから。

もし、執拗に過去(や現在)の性的経験などを聞いてくる人がいた場合に、会社が真摯に対応してくれないのであれば、労働基準監督署や労働相談窓口に相談すればいいと思います。

でも、そこまでしないといけない状況があるでしょうか。

第三者機関に相談する前に、「そんな状況が頻発するような会社で働く必要があるのかどうか」を考えるべきではないでしょうか。

あなたの知識・能力・才能を必要とする会社は、必ず存在するのですから。

尚、性的指向・性自認が「異動や評価に影響しない」のは当たり前です。仮に異動や評価に影響があれば、大ごとになるわけですから、もし、そういったことが認められる場合には、やはり、ご自身がその会社で働き続けるかどうかも含め、色々と検討なさるべきだと思います。

なぜなら、会社と個人との間でもめ事が起こった場合に、個人が会社に対し出来得ることには限界があります。

また、労働組合の組織率が2割程度である現実を考えると、組織によるサポートは得られないことを原則として動く必要があります。

「会社に一旦入ったら、全ての社員が“人財”だ」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、ライバルに人間だけではなくAIのような人工知能も加わったこの時代に、言葉遊びのようなことは言っていられない以上、性的指向・性自認の公表は、「その会社で必要とされる人材であること」が担保されて初めて行うべきものと考えます。

もちろん、お勤め先が性的指向・性自認に理解のある素晴らしい企業であるならば、ご自身が性的指向・性自認を、今回のケースのように就職面接の場で公表するのは問題ないでしょう。

お好きになさったら良いと思いますが、それでも、働くことにおいて、性的指向・性自認は関係がなく「性的指向・性自認が仕事の善し悪しを決める」こともない以上、性的指向・性自認の公表をすることや、それを受け入れてもらうことに過度に神経質になるのは、注意が必要だと思います。

また、性的指向・性自認を公表したことにより、それが第三者へと伝わる可能性は、排除できないと思います。

昔から、「人の口には戸を立てられない」と言うように、自分が想定していたものとは違う形で自分の性的指向・性自認が伝わることを、止めることは出来ないと考えるのが妥当でしょう。

今回問題になったケースのように、「自分が納得した形で、必要に応じ公表していく」というのは、会社組織において、無理があると思います。

会社に公表するということは、即ち、全社員に公表するのと同じ意味を持つと理解し、公表したことによって生じる、予想もしなかった展開に対して、自分が冷静に対処することを予めシミュレーションしておくのが、自分を守る術になると思います。

私も、公表したあとには、良いこともあれば、気分の良くないこと・・・様々なことがありました。

でも、10人いれば、10人がそれぞれの反応を示すわけです。

職場には、職場のルールがあり、それを尊重して労働する義務が労働者にはあります。

多様性を標榜しながら、性的指向・性自認は、非常に繊細で機微な個人情報で、慎重に対応してほしいと言うのは、職場の秩序を徒に乱しかねず、過度に神経質になって、第三者が自分の性的指向・性自認を知ってしまうことにアレルギーを起こすことがないよう、公表する側も注意が必要だと思います。

また、お勤め先における性的マイノリティに対する施策が、物足りなく感じることもあると思いますが、それを、短絡的に「差別だ!」と言うのは、論理が飛躍しているように思います。

足りないのであれば、足せば良いし、変える必要があれば、変えれば良いのです。

ただ、もし、満足のいく施策が今すぐには得られないのであれば、自分でその代替となるもので対応するしかありません。

なぜなら、就業規則はころころと変えるべきものではないからです。

「差別だ!」と会社と労働者の対立を煽るのではなく、「より良い会社を共に作る」という共通理念のもとで、就業規則を更に良いものに変えていく必要があります。

一方、性的マイノリティに対する施策とその会社で働くことを天秤にかけ、性的マイノリティに対する施策が充実しているかどうかが自分にとって価値のあるものなのであれば、迷うことなく転職でも起業でもなさったら良いと思います。

なぜなら、性的マイノリティを募集している場合は別ですが、性的マイノリティだからその企業・組織で働くのではなく、会社は「その人が必要だから」採用するのであり、労働者は「その企業から自分の知識・能力・才能に見合った待遇を得られるから」就職するのですから。

今回のケースは、就職面接の段階から性的指向・性自認を公表出来たようですから、お勤め先は性的マイノリティに対し理解のある企業なのではないかと、私は想像します。

ご本人がどういった働きぶりだったのかは記事からはわかりませんが、きっと、充実した日々を送っておられたのではないでしょうか。ただ、「ボタンの掛け違い」が生じ、会社が言う「一部見解の相違」が起こってしまったのではないでしょうか。

ご本人は、「国がイニシアチブを取るべき」ともおっしゃっているようですが、「性的マイノリティに対しオープンな会社にしたい」という意思を受け入れてくれた会社なのですから、国が出るまでもなく、ご本人と会社の間で、上手く話をまとめられるはずです。

会社と円満に話が出来るよう、お祈り申し上げます。

(2020年6月14日初稿)

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