• 洪均 梁

名古屋地裁「犯罪被害給付金不支給裁定取り消し請求」に関する判決について

更新日:2021年3月24日

2020年6月4日に、名古屋地裁で「犯罪被害給付金不支給裁定取り消し請求」に関する判決が出たそうです。

同性パートナーを殺害された方やそのご家族には、哀心よりお悔やみを申し上げます。

さて、判決が出た途端、「同性愛者への差別だ!」とLGBT活動家を中心に様々な批判が展開している状況なのですが、この判決を初めとし、浮かび上がる様々な疑問を含め、私の意見と提言を述べます。

(この記事を執筆している段階で、判決文の全部を読んでいないので、一部推測が含まれます。また、判決文の全部が明らかになると、新たにわかることもあるでしょう

6月7日追記:判決文の一部を読むことが出来たので、追記しています)

まず、該当の判決に関しては、NHKが比較的詳しく報道しているので、以下、抜粋した記事をご参照ください。

NHK「同性パートナーへの支給認めず 遺族給付金訴訟で名古屋地裁」 2020年6月4日 18時19分

同性のパートナーを殺害された男性が、犯罪被害者の遺族への給付金が支給されなかったことに対して取り消しを求めた裁判で、名古屋地方裁判所の角谷昌毅裁判長は「税金を財源にする以上、支給の範囲は社会通念によって決めるのが合理的だ」という判断を示し、そのうえで、「共同生活をしている同性同士の関係に対する理解が浸透し、差別や偏見の解消に向けた動きは進んでいるが、婚姻の在り方との関係でどう位置づけるかについては、社会的な議論の途上にあり、婚姻関係と同一視するだけの社会通念が形成されていない」として訴えを退けた。

愛知県の内山靖英さん(45)は平成26年、同居していたパートナーの男性を殺害され、犯罪被害者の遺族を対象にした給付金を県公安委員会に申請したが、認められなかった。

給付金の対象には「事実上の婚姻関係」だった人も含まれていて、裁判では、内山さんが「同性同士でも事実上の婚姻関係だった」として取り消しを求めたのに対して、愛知県は「制度は男女の婚姻関係を前提にしている」と反論していた。(引用終わり)

これに対し、内山さんの代理人弁護士の発言を反映したかのように、

  • 残されたパートナーがかわいそう

  • 大切なパートナーを殺された苦しみは異性と同性で何が違うと言うのか

  • この社会に生きる全ての人が、差別や不正義がまかり通る世の中で生き続けるのか

というような意見がLGBT活動家から一斉にあがっており、また、それとは逆に、

  • 同性婚を認めたら日本の伝統が失われる

という過激な意見も出ているものの、私は、そのような、いささか本質から逸脱し、感情に任せた議論には加わるつもりはありません。

さて、私が今回の判決を報じる内容を読んだとき、

  • 同性同士は事実婚として認められないのか?

  • 異性間の事実婚が支給対象となるなら、同性同士でも犯罪被害給付金の趣旨は及ぶ気がする

  • 「事実婚関係にあった同性間で不貞の賠償責任は認めるのに、20年来同棲の同性パートナー(10年から内山さんの母親を介護)を殺害された人への犯罪被害は認めないというのは、違和感がある

と思いました。

それでは、まず、事件は一体どんなものだったのか、確認したいと思います。

かなり、ネットを漁りましたが、当時の記事を見つけることが出来ました。

「週刊実話」が、2015年1月24日19時00分に配信しているようなのですが、

男性同士の三角関係で起きた悲劇

去年暮れ、名古屋市内の民家で52歳の男性が殺害された事件は、男性の同性愛者3人の間に起きた愛憎のもつれが原因だったことが警察の調べでわかった。

1月6日に愛知県警中村署に死体遺棄容疑で再逮捕されたのは、同市西区の解体作業員、西初容疑者(41)。事件は昨年12月22日の午後8時過ぎ、同市中村区の住宅に内山靖英さん(39)が勤め先から帰宅したところ、同居人の水野英明さん(52)が殺されているのを発見し通報、捜査が開始された。

「水野さんは下着だけの半裸状態で、一階台所のシンク下部の収納スペースに身体をくの字に折り曲げられて押し込められていた。司法解剖で、死因は胸を刃物で一突きされた心損傷と出血性ショックだったことも判明した」(捜査関係者)

捜査関係者によれば、内山さんが帰宅する1時間半ほど前に西容疑者がこの家を訪れた記録が、インターホンのカメラに残されていたという。

さらに去年11月には、内山さんが中村署に西容疑者のストーカー行為を相談していたこともあり、すぐに西容疑者が浮上した。

「内山さんと水野さんは2年ほど前、名古屋の繁華街の飲食店で親しくなり、1年半ほど前から内山さんの家で同居を始めた。近隣住民によれば、水野さんは愛想良く挨拶するなど明るい性格だったようです」(地元記者)

西容疑者は事件発生後の12月27日未明、路上で内山さんと取っ組み合いの喧嘩になり、その際の暴行容疑で身柄を拘束されており、年を越して殺人事件の取り調べが本格化していた。

西容疑者が内山さんに横恋慕したが、内山さんが振り向かなかったため、嫉妬のあまり同居人の水野さんを手にかけたという構図だが、しばしば男同士の嫉妬は女のそれを上回ることを証明するような事件だった。

(引用終わり)

これ、実は、同居期間が、2015年当時(週刊実話)と2017年時点(朝日新聞)で異なるのです。

週刊実話では、

「同居期間は2年ほど前、名古屋の繁華街の飲食店で親しくなり、1年半ほど前から内山さんの家で同居を始めた」

と地元記者の話を掲載しているのですが、

朝日新聞(2017年1月25日5時00分配信)によると、

「申請者と被害男性は約20年間同居し、被害男性が家事や家計を担当するなど、夫婦同然の関係だった」

という内山さんの代理人の話を掲載しているのです。

更に、Marriage For All Japanが、2020年5月31日10時10分にTwitter上に掲載した、この裁判の弁護団が作ったとする映像によると、

「Aさん(内山さん)はBさん(水野さん)と婚姻届を出していなかったものの、生涯のパートナーとして20年以上生活を共にしていた。ある日、AさんがAさんの母親を介護することになった際、Bさんが『仕事を辞め、Aさんの母親と一緒に住んでAさんの母親の介護をする』と言った。そしてAさんの母親が亡くなるまで介護をした。こうしてAさんとBさんとの同居生活が20年を超えたある日、殺人事件が起こった。」

と、更に同居期間の詳細と合わせ、変化しているのです。

1年半、約20年間、20年超・・・どれが正しいのでしょうか。

2014年12月22日時点で、水野さん52歳、内山さん39歳、犯人41歳だったそうなので、仮に同居期間を20年とすると、水野さん32歳、内山さん19歳の時から、「生活を共にしていた」ことになります。

週刊実話が言う「1年半」とは、もしかしたら、どこかから事件の現場になった部屋に引っ越してきてからの期間を指しているのかも知れませんが、20年間、どういった同居生活をしていたのか、少なくとも詳細が知りたいですね。

また、事件発生時に原告と犯人は交際していたことは明らかになっているようなので、犯罪被害給付制度において、給付金が支払われない要件に当たるのではないのでしょうか。

さて、LGBT活動家が指摘するポイントについて、おさらいしたいと思います。

1.そもそも、事実婚とは? 事実婚が認められている根拠は何か

事実婚と内縁は同じで、男女が婚姻の意思を持って生計を一つにして生活していたら 事実婚=内縁関係となるのです。

その条件は4つあって、

  • お互いに婚姻の意思を持っている

単に恋人と一緒に暮らすという認識しかなかったら「同棲」という状態に過ぎないものであり、事実婚にはならない。

  • 共同生活をしている

生計を共にして夫婦としての共同生活をしている必要があります。夫婦生活の実態がなかったら結婚しようと思っていても事実婚にはならず、ある程度の継続性が要求されます。通常は3年もあれば、事実婚として認定されやすいとされているそうです。

  • 事実婚(内縁関係)を公的手続きにも表明している住民票に「未届の妻(夫)」と表記されている

住民票は法律婚以外の状態でも事実状態としてその人の生活の実態はどのようなものであるか、届け出ることが出来るから、公的な資料によっても「夫婦」とされていたら、事実婚を示す有力な資料となる。また、社会保険に第3号被保険者として登録していることや、事実婚を証明する私的契約書(内縁契約書)を調印していることも有効とされます。

  • 子供を認知している

同居して子供を認知している場合も、事実婚であると評価され得ます。全然関係がない子を認知することはそう多くないだろうと考えられています。

2.配偶者とは?

婚姻の届け出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情(上記①)にあった者を含むと考えられています。

3.婚姻とは?

役所に婚姻届を提出し、受理されたら「結婚した」ということになります。

  • 憲法第24条1項:婚姻は両性の合意のみに基づいて成立。

  • 民法第739条:婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出ることにより効力発生。(以下略)

  • 民法第740条:民法第731条から第737条及び前条2項の規定その他の法令の規定に違反しないこと

4.犯罪被害給付制度において、給付金が支給されないケースはないのでしょうか。

  • 警察庁のパンフレット によると、犯罪被害者と加害者との関係(金銭関係や男女関係のトラブルなど)、その他の事情からみて給付金を支給することが社会常識に照らし適切でないと認められるときが、給付金の全部または一部が支給されないことがあると記載されています。

水野さんが内山さんとの関係をどのように考えていたか…今となっては確認のしようがないのですが、20年も一緒にいて、なぜ養子縁組を考えなかったのか…ある意味親子くらいの年齢差もあったのに、それをしなかった理由は何だったのでしょうね。

こういったことが起こったという事実に接すると、我々も、ある日突然、パートナーがいなくなった時のことを考えておくべきではないか、という思いを改めて持ちますね。

また、同性カップルの一人が殺害されても、社会通念上、重大な経済的又は精神的な被害を受けることは想定されるべきだとのことですが、婚姻に関して、同性カップルを法的に認めるものがないのですから、「社会通念が形成されていない」という判断に至ったことには意味があると思います。

そして、何より、日本国憲法第24条が定める「両性」とは、日本国憲法が制定された当時、この世界に同性間の婚姻が想定されていなかった以上、この「両性」は男と女であることは明らかであり、ゆるぎないものと考えます。

「日本国憲法はGHQが作ったんだ!」という理屈に乗っかるならば、第2次世界大戦終了時のアメリカにおいて、同性間婚姻の概念があったのでしたら、ぜひ、教えていただきたいですね。

念のためですが、2020年1月30日の参院予算委員会で、石川大我議員に対し、安倍首相が「憲法審査会で議論しよう」と改憲による同性間婚姻の実現を呼びかけたことは、覚えておくべきことかと思います。

改憲による同性間婚姻の保障の実現の可能性は、ゼロではないのです。

そうすると、婚姻届は、男と女、つまり、異性間婚姻のケースしか受理されないのも明らかであり、今回の判決理由は、やはり、妥当だと言えるでしょう。

また、この事件は、週刊実話によると「3人の男の痴情のもつれが生んだ悲劇」だったそうですから、給付金を支給するかどうかの判断をした際に、「給付金の全部または一部が支給されないことが、社会常識に照らし適切でない場合」に該当すると判断されたとも考えられます。

そういった背景も考えると、判決文を全部読んだうえでないと、「『同性カップルだから』ということで不支給裁定になった」と断定し、この判決は性的マイノリティに対する差別だ!と決めつけて糾弾するのは、危険ではないでしょうか。

今後、控訴する意向だとのことですから、もし、高裁や最高裁で判決が覆るようなことがあった場合には、同性間婚姻の在り方にも大きく影響して来るものと思われ、引き続き注目していきたいと考えています。

(2020年6月5日初稿・6月7日加筆)

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