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2022年参院選の各党「LGBT公約」を分析する

対象政党:自由民主党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、日本共産党、社会民主党


 ここ数年、与野党ともに、選挙公約に性的マイノリティに向けた施策を加えるようになりました。

 6月22日公示・7月10日投票の参議院選挙では、性的マイノリティ当事者が立候補することが報道されるなど、この記事を執筆している今でも、選挙がもう間もなくであることを様々な場面で実感します。

 今回は、与野党ともに、選挙公約が出そろったこのタイミングに、各政党の性的マイノリティ向けの施策について、分析をしてみたいと思います。


総論

 全体的に、性的マイノリティ向けの公約は、「LGBT推し」「なぜ、LGBTなのか」と揶揄されるような状況には程遠いもの、言い方を変えると、“後退している” とか、“当たり障りのない内容にまとまった状況” とも言えます。

 しかし、従来の政策から転換した政党と、従来通りの政策を並べた政党に分かれたのが大きな変化だと言えます。

 この動きは、

  1. LGBT活動家や当事者団体とどれだけ関係が深いか、つまり、彼らの要求や主張をどこまで反映させているか

  2. ややもすると、広く国民を巻き込んだ議論や検討なくして突き進むかのような性的マイノリティ向けの公約が現実的な視点で考えられるように変化した

が反映したものだと考えます。

 この中で、従来にない政策を打ち出した政党については、数年前から性自認の問題を初めとし、性的マイノリティに関わる政策は現実に即したものであるべきだと訴えてきた当会としては、性的マイノリティの問題をより正確に受け止めた結果であろうと捉え、歓迎するものです。

 なぜなら、今までの性的マイノリティ向けの公約は、“目の粗いザルで、細かい砂をすくい上げる様なもの” で、理想と現実との間の大きな乖離が見られたからであり、今後、性的マイノリティに関する政策は、より現実的な視点で、取り組まれるようになる出発点となったと、後で振り返って評価される言える選挙(年)になると予想します。


各論:各政党の公約

自由民主党

2022年6月16日発表「総合政策集2022 J-ファイル」より

 147ページ以降の、多様性・共生社会において、

852 性的マイノリティの理解増進

性的マイノリティの社会生活上の困難を軽減するため、地域・学校・職場等社会の様々な場面における理解増進を図ります。また性別不合等の対応に関し、生命の尊厳を守る観点から時勢に応じた法制度等の見直しを行います。

と述べられています。

 

 自民党は、性的マイノリティ向けの政策を大きく転換したと言えるでしょう。

 

 2021年の衆議院選挙のJ-ファイルでは、

815 性的指向・性自認に関する理解の増進

性的指向・性自認(LGBT)に関する広く正しい理解の増進を目的とした議員立法の速やかな制定を実現するとともに、民間や各省庁が連携して取り組むべき施策を推進し、多様性を認め、寛容であたたかい社会を築きます。

と述べられており、ここから言える転換点は3つあります。

  1. LGBT理解増進法の放棄

  2. 概念(性的指向・性自認)から人(性的マイノリティ)ベースの政策に転換

  3. 性別不合に関する法制度等の見直しに言及

 性的指向・性自認という主観的であいまい、且つ、生涯に亘って流動的である “概念” に対する理解増進ではなく、性的マイノリティという “人” に対する理解増進を図ることにしたのは、至極現実的で、まともな政策(感覚)であると評価できます。

 また、“法律ありき” ではなく、先ずは理解を深めていくことが重要であり、今、必要なものであると判断がなされたのでしょう。

 その重要な根拠となったのは、性自認が、曖昧且つ主体的であり、Gender Identity=性同一性と相容れないものを、法律の根拠とすることは、社会を根底からひっくり返すような大きな危険性をもつと気が付いたことではないかと考えます。


公明党

2022年6月14日発表「マニフェスト2022」より

「地域共生社会/孤独・孤立対策」として、

  • 性的指向、性自認に関する性の多様性を尊重する社会を築きます。

とし、

「2 誰もが安心して暮らせる日本へ」の中で、

④性的マイノリティへの支援

  • 性的指向と性自認に対する差別や偏見、不適切な取り扱いを解消し、多様性を尊重する社会の実現のために自治体パートナーシップ認定制度を推進するとともに、性的指向と性自認に関する理解増進法の成立を図ります。また、性的マイノリティの方々への相談体制の充実、就活・職場におけるハラスメント対策、学校におけるきめ細やかな対応、自殺総合対策での対応を推進します。

  • 性同一性障害特例法の見直しを含め、ホルモン療法の保険適用化など、当事者が抱える困難の解消を図ります。同性婚については国民的議論を深めるとともに、国による具体的な実態調査を進め、必要な法整備に取り組みます。

と提言しています。

 政権与党の一翼を担う政党であるにもかかわらず、野党、つまり、従来通り、LGBT活動家やLGBT当事者団体の要求や意見を鵜呑みにした政策を掲げているところが残念です。

 また、未だ、性的指向と性自認をベースにして理解増進法を語っているのも、不思議でなりません。

 一方、性別不和(性別違和等。従来の性同一性障害のこと)の人々の生活上の困難について、丁寧に拾い上げていることは、評価出来ます。

 また、同性婚については、国が主導する形で、国民的議論や実態調査が行われることを前提にしているのは、現実的な視点に立ったものと言え、こちらも評価できるものと考えます。


立憲民主党

2022年6月3日発表の参議院選挙公約より

「09人権・女性・障がい・多様性」において、

あらゆる差別が解消され、誰もが自分らしく生きられる共生社会に向け、人権政策を抜本強化します。性別を問わずその個性と能力を十分に発揮できるジェンダー平等を確立します。すべての人に居場所と出番のある社会を実現します。

とし、LGBTに関する法整備の推進を三本柱のひとつに据えています。

 その説明として、LGBT施策は、「ジェンダー差別の解消」において二つ上げられています。

  • 同性婚を可能とする法制度を実現します。

  • 「LGBT差別解消法」を制定します。

 立憲民主党については、従来のLGBT政策しか打ち出しておらず、実現性に乏しいと言わざるを得ません。

 同性婚についても、憲法改正なのか、憲法以外の法律の改正なのか、あるいは、新しい法律を制定して実現させるのか、具体性に欠けます。

 また、LGBT差別解消法の立ち位置も、微妙です。

 なぜ、LGBTだけ、独自の法律を作る必要があるのか。

 立憲民主党のマニフェスト上で、その矛盾が出ています。

 なぜなら、LGBT政策を述べたその直後に、「誰ひとり取り残されない共生社会の実現」をあげ、

部落差別、アイヌ差別、障がい者差別をはじめとするあらゆる差別の解消を目指し、「包括的差別禁止法」の制定を検討します。

としています。

 この、「包括的差別禁止法」に、性的マイノリティを含めれば足りるのではないでしょうか。

 この参考となるのは、三重県の「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」です。

 「あらゆる差別の解消」を目指す法律を制定するのであれば、LGBTだけを対象とした差別解消法は不要です。

 このように考えると、立憲民主党の性的マイノリティ向け政策は、同性婚を可能とする法制度を実現することだけとなり、他党と比較すると、野党第一党として、充分な政策を用意したとは言えないと考えます。


日本維新の会

2022年6月2日発表「政策提言 維新八策2022」より

「政策提言 維新八策2022」において、《新しい国のかたち》 6. 【未来への投資・多様性】 教育・子育てへの徹底投資、多様性を支える社会政策のうち、41ページ目にLGBTQの項目を設けて説明しています。

LGBTQ

  1. 343. 同性婚を認め、LGBTQ などの性的少数者が不当な差別をされないための施策を推進

  2. 344. 自治体による同性パートナーシップ制度の促進と共に、同性間に限らず使えるパートナーシップ制度(日本版パクス)の導入を目指す

  3. 345. 性自認・性同一性を巡る諸課題やトランスジェンダー当事者が直面する困難の解決に取り組み、多様性が尊重される環境整備に向けて政府内に専門的に議論をする会議体を設置。議論の際は、女性や子どもなどの権利が守られることにも十分な配慮をもって進める。

 どのようにして同性婚が認められ、性的少数者差別を防止するのかがはっきりしないところではあるものの、ややもすると、似たり寄ったりで新鮮味のない政策、違う言い方をすると、“色々と言われるので、とりあえず、言い分を聞いて公約にした” かのような施策が並ぶ野党のLGBT公約において、日本維新の会のそれは、他党にはない現実的なものであるように見えます。

 例えば、

  1. 性的マイノリティが差別されないためには、いわゆる「LGBT差別解消法」の制定だと断定していない

  2. 同性婚は、民法又は憲法の改正で実現出来るなどと断言していない

  3. 性自認・性同一性を巡る諸問題について、触れている

  4. 性的マイノリティの問題を議論する際には、女性や子どもなどの権利が守られることにも配慮

といった点が、昨今の論争をも踏まえた、現実的な提言に繋がっていると評価できます。

 また、この維新八策において、ジェンダー平等について触れられていないことも、他党と異なる点であり、ジェンダー平等という言葉で大雑把な説明をせず、男女共同参画や、子育て・保育といった項目で施策を丁寧に設けることで、男女の平等を実現しようとしているように見え、施策はより具体性を持つと考えます。

 日本維新の会の「LGBT公約」は、同性婚は日本国憲法が既に保障しており、民法改正で同性婚は実現すると考えている人々や、性的マイノリティの問題は「LGBT差別解消法」や「LGBT平等法」でないと解決しないと考える人々から支持されるとは考えられません。

 しかし、それ以上に存在する「野党に投票したくても、公約を信頼できず、野党に投票できずモヤモヤしている人々」、特に、性自認やトランスジェンダリズムを問題視する女性は、“頼れる野党”として日本維新の会を選択するのではないかと予想します。

 日本維新の会が、野党において最も現実に即し、また、公約を読めば理解し、納得できる「LGBT公約」を発表したと言えるでしょう。


国民民主党

2022年6月6日発表「参院選政策パンフレット」より

 「参院選政策パンフレット」において、国民民主党が掲げる政策5本柱のうち、3 「人づくり」こそ国つくりの ⑤ ジェンダー後進国脱却・多様性社会実現において、性的マイノリティが関わる政策を述べています。

  1. 障がい、ヤングケアラー、不登校、引きこもり、外国ルーツ、性的マイノリティなどの子どもが互いを理解し、共に学べる「インクルーシブ教育」の環境整備

  2. 多様な家族のあり方を受け入れる社会を目指す

  3. 「LGBT差別解消法」の制定

 また、ジェンダー平等については、4 自分の国は「自分で守る」の④「総合的な経済安全保障」の強化において、SDGsの推進の一環として、「包摂的で公正な社会の構築などに取り組む」としています。

 他の政党にない政策としては、「インクルーシブ教育」の環境整備が挙げられますが、これが具体的にどのようなものなのかよく分かりません。

 あえて批判的なことを言うならば、この新しい教育では、この教育を受けた子どもが社会の中心を担うまでに20年から30年はかかるであろうことを考えると、目覚ましい解決をすぐに生むようには思えません。

 また、子どもが差別をするのは、大人からの影響によるものが大きいと私は、実体験からして、即効性のあるものにするためには、大人への啓発が同時に求められると考えます。

 また、「多様な家族」とは性的マイノリティの家族を含めたものと考えた場合、それが、セクシュアリティの多様性も考慮すれば生物学的性別を無視した形でないと実現しない以上、“大風呂敷過ぎる” ものであるように思います。

 そして、ジェンダー平等が何を根拠にしているのか、ましてや、SDGsでは性的マイノリティのことは一切触れられていないというのに、「包摂的で公正な社会」とは、頭としっぽの整合性が取れていません。

 従って、このパンフレットの内容では、国民民主党が何をしたいのか、何を目指しているのか、そして、いつ、結果が出るのかがはっきりとしないため、性的マイノリティの支持はもとより、性自認やトランスジェンダリズムを問題視する女性が国民民主党を選択するようには思えません。


日本共産党

2022年6月8日発表「参議院選挙政策」より

 「2022年参議院選挙政策」において、その第2章、「2、物価高騰から生活を守る――弱肉強食の新自由主義を転換して『やさしく強い経済』に――日本共産党の五つの提案」において、5つ目の提案「⑤ジェンダー平等をあらゆる分野でつらぬきます」で述べられています。

 具体的には、3つの施策の実現を目指すようで、

  1. 選択的夫婦別姓をいますぐ導入する

  2. 同性婚を認める民法改正を行う

  3. LGBT平等法を制定し、社会のあらゆる場面で、性的マイノリティーの権利保障と理解促進を図る

が述べられています。

 しかし、2019年の公約では、

  1. 同性婚を認める民法改正を行う

  2. 同性パートナーシップ条例・制度を推進

  3. 野党共同提出の「LGBT差別解消法案」の成立に力を尽くす

  4. 性別適合手術のホルモン療法への保険適用の拡充、学校教育や企業内研修、当事者である子ども・若者のケアなど、社会のあらゆる場面で権利保障と理解促進を進める

と公約に書かれていたことを思えば、大きく後退した印象を持ちます。

 また、共産党が言う同性婚は、民法改正によって実現する、つまり、日本国憲法は既に同性婚を認めているというLGBT活動家らの主張を前提にしたものであり、また、日本共産党独自で、「LGBT平等法」の制定を目指すことにしたようにも見えます。

 これでは、性的マイノリティの多数派である保守派や無党派の人々が賛同するとは思えず、また、性的マイノリティ向け政策の基礎と位置付けている「ジェンダー平等」については他党同様に、それがいったい何なのかについての説明が具体性に乏しく、性自認並びにトランスジェンダリズムを問題視している女性有権者の支持は得られないでしょう。

 共産党を支持してきた女性の共産党離れが、先の総選挙に続き、顕著に表れるのではないかと予想します。


社会民主党

2022年6月7日発表「重点政策2022」より

 「重点政策2022」において、その33ページ目「第5章 ジェンダー平等の実現」で、29番目の重点政策として、選択的夫婦別姓と共に、LGBT差別解消法の成立と同性婚の法制化が挙げられています。

  1. 海外の事例や国連の勧告を根拠に、「LGBT差別解消法案」を成立

  2. 地方公共団体で導入が進むパートナーシップ制度を引き合いに、同性婚を法制化し、婚姻の自由を保障

  3. 仏PACS(民事連帯契約)を参考にし、同性・異性を問わず、共同生活を営むカップルを対象とする非婚カップルの保護制度の創設

 この三つを、施策として挙げていますが、性的マイノリティが必ずしも選択的夫婦別姓を支持しているわけではないことを考えれば、家族のあり方という観点から、性的マイノリティに関する施策を無理やりひとまとめにしたように見えます。

 また、その性的マイノリティ向けの施策は、ジェンダーで婚姻制度を利用するわけではないことや、異性婚は同性愛者でもすることが出来る現実及び、目下論争となっている性自認やトランスジェンダリズムの問題があるにもかかわらず、選挙向けにとりあえず、支持者が求めるであろうと考えたものを寄せ集めたようにも見えます。

 「非婚カップルの保護制度」でさえ、必ずしも性的マイノリティに限られるものではないことを考えると、ここでPACSに倣ったものを施策として打ち出しても、婚姻制度を利用しようとしない異性愛者の有権者に伝わるのかどうか、疑問がありますし、純粋な「LGBT公約」は、LGBT差別解消法案と同性婚の2つに限定されるといえます。

 ただし、同性婚については、何をもって法制化するのかを曖昧にしているのが、気になるところです。

 また、他党の公約でも触れましたが、社民党が言うジェンダー平等とは生物学的性別を無視するのかどうかに答えていない、つまり、日本維新の会のように「女性や子どもの権利などに配慮する」と宣言していません。

 このままでは、性自認やトランスジェンダリズムを問題視する人々、特に女性をつなぎとめることは出来ないでしょう。


どの政党が現実的で頼りになるのか:選挙結果を予想する

 現実的で実行力がありそうな「LGBT公約」を掲げているかで考えると、

与党:自由民主党

野党:日本維新の会

が、現実に即し、且つ、公約の実効性の高い政策を掲げる政党であると考えます。

 この二つの政党は、与党、野党の立場でそれぞれ、従来のLGBT政策とは一線を画するものを政策としていることが共通しています。

 ところで、今回の参議院選挙では、「性自認やトランスジェンダリズムを問題視する女性」をどうやって取り込むのかが、選挙結果を大きく左右するテーマのひとつになると予想します。

 性自認やトランスジェンダリズムを問題視する女性(及び男性)は、予想以上に多いことに気づいた政党が、女性票を獲得し勝利すると言って、差し支えはないでしょう。

 つまり、ジェンダー平等に関して、女性や子どもの権利を考慮することに触れず、「何をもってジェンダー平等なのか」という有権者の疑問に答えていない政党は、既に、投票率が低いと予想されている状況において、無党派層からの票が望めないところへ、更に女性からの票を失うとなると、思ったように議席が獲得できないか、議席を減らす結果になるはずです。

 政治は生き物、選挙は最後まで分からないと言われるそうですが、どのような選挙結果になるのでしょう。

 女性がどのような判断をするのか、を、政党選択の理由のひとつとして注目し、今回の参議院選挙を見守りたいと思います。

(2022年6月19日初稿)

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