
洪均 梁
PrEPについて考えてみよう ①
更新日:2021年3月24日
脚注:本文内では、エイズウイルスという言葉を「エイズ感染症(後天性免疫不全症候群)を引き起こす様々なウイルス」という意味で、使用します。
また、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus)については、「HIウイルス」と表記いたします。
最近、「PrEP(プレップ)」という言葉を目にすることはないでしょうか?
PrEPは Pre-Exposure Prophylaxis(暴露前予防投与)の略称で、性行為の前に抗HIV薬を服用することにより、エイズウイルスの感染予防に効果があるという話ですが、今回は、この「PrEP」をしてする SEX(性的接触)について、私の意見及び提言を述べます。
まず、これまでの涙ぐましい努力の結果、エイズウイルスにかなり効く新薬が開発されてきたことは、人類の進歩であり、いつかきっとHIウイルス並びにAIDSに打ち勝つ日が来ると、私は信じています。
でも、特効薬やワクチンは、まだないのです。それは新型コロナウイルスと同じことです。
そのような状況にもかかわらず、エイズウイルスに感染する高リスクな行為をする人が一定数いて、新たに感染する人が途切れることなく生まれている現実がある中で、PrEPをクローズアップするしかないという事情もあるのだろうと、私は解釈しています。
何かのご縁でこれを読んでくださるあなた様が、一瞬でも立ち止まり、「私は、自分のために何をするべきか」「相手のために何をするべきか」を考えるきっかけを、この記事で見つかることを願ってやみません。
「SEX(性的接触)が、自分と相手の健康や命を犠牲にすることは、あってはならない」と、私は思います。
エイズウイルスに感染し、AIDSで亡くなっていった大勢の人々の魂が浮かばれるためにも、本質的なことに気づく助けになれば、幸いです。
もし、PrEPをしてみたいと思うのでしたら、PrEPをするために行動する前に、一度、「エイズ予防情報ネットAPI-Net」の電話相談で、話を聞いてみることをお勧めします。
フリーダイヤル:0120-177-812
携帯電話: 03-5259-1815
受付: 月~金 10:00~13:00, 14:00~17:00
さて、皆さんは、PrEPが、
エイズウイルスの感染を予防する
HIウイルス/エイズ予防法の新しい選択肢
ゲイ・バイセクシュアル男性(トランスジェンダーを含む)の性の健康を支援
エイズウイルスの感染リスクからあなたを守る方法
などと説明されて、
エイズウイルスに、感染しない
AIDS患者にならない
ピルやインフルエンザの予防接種と同じもの
というような印象を覚えたのなら、危険だと思います。
そもそも、厚生労働省はPrEPを認可していません。
だから、複数のサイトや団体が参照しているのは、イギリスの民間団体が発信している情報であり、それを日本語に訳しているに過ぎません。
PrEPを紹介しているサイトによると、当のイギリスでは、現在、PrEPに対する保険償還の制度はなく、その代わりに、約一万人が臨床試験であるPrEP IMPACT試験にてPrEPを入手することが出来るようになっていると説明されています。
イギリスでさえ、臨床実験、つまり、治験なのです。
日本においても、PrEPは治験・臨床実験なのです。
PrEPをし、病院で定期的に検査を受けるというのは、新薬開発のための実験に参加することです。
次に、「感染の可能性が低くなる」というのは、「絶対」「感染の可能性が0%になる」ことではないのです。
そして、PrEPが言う「予防」とは、「かからない」「かかっても薬を飲んでいれば、治る」という意味ではありません。
抗HIV薬を服用することにより、血液中のエイズウイルスがどんどん少なくなっていくことは、よく知られているものの、実際にどこまで少なくなるかは、理論値でしかありません。
薬との相性もあるわけですから、理論値が、そのまま自分に当てはまるかどうか、つまり、期待していた結果を得られるかは保証されていないのです。
更には、副作用だってはっきりとしていないのです。
副作用には個人差があるし、そもそも、HIVに感染することはつまり、かなり強い薬を長期間、決められた時間、回数で服用しないといけないものなのですから、内服する薬の副作用を軽く見るのは誤りです。
PrEPの服用方法をよく読むと、PrEPをする人の大半に副作用は出ていないとしつつ、その他様々な薬と同様にPrEPにも副作用を引き起こす可能性はあるとも書いてあります。
臨床試験では、軽度の吐き気や下痢、腹部膨満感、頭痛といった副作用が、服用して一ヶ月以内に十人に一人の割合で報告されている
時折、PrEPはより深刻な副作用を引き起こすこともあり、腎機能の低下や骨の健康を損なうなどの可能性があるため、治療前と治療中に血液検査が行われる
三、四ヶ月毎に、第四世代HIV迅速検査(別名、抗原抗体検査)を受けよう
その他の性感染症が無いか、しっかりと検査しよう
性感染症の検査の際には、尿たんぱくを調べるため尿試験紙検査を受けよう
四十代以上、又は腎臓が悪い方は腎機能を調べるために追加の血液検査が義務づけられる可能性がある
十二ヶ月毎に、腎機能を調べるために血液検査を受けよう
ゲイ男性との性行為をしている場合はC型肝炎の検査を受けよう
これらの但し書きを読むと、PrEPは素人には扱いづらいものだと言えるのではないでしょうか。
そして、仮にPrEPが自分ではうまくいっていたとしても、相手がPrEPをしていることを何で証明するのか、という課題があります。
例えば、性的にそそられ、一緒にホテルに入った相手から、「俺、PrEPやってるんだ」と言われて、それをどうやって確認出来るでしょうか。
あるいは、今の状態が、問題のないレベルの薬効があると、何をもって確認出来るのでしょうか。
また、その相手が、目の前に「これがPrEPのクスリなんだ」と言って見せたものが、本当にPrEPで服用している抗HIV薬なのか、本当は、カプセルに入れられたり、注射器に入った違法薬物だったら・・そういうリスクは頭の片隅に置いておくべきだと思います。
(これからは、注射型の抗HIV薬が出てくるようです)
この、不確実性は、常に付きまとうものだと思います。
また、なにより、はっきりと「感染しません」「感染しても、治ります」とは、どこの誰も、どの団体、病院も言ってはいません。
ましてや、「私、PrEPをやって、こんな効果がありました」なんていう話は聞きません。
PrEPを紹介はしているけれど、誰もPrEPを推奨していないし、責任も負っていません。
PrEPは、まぎれもなく、それをする人の自己責任なのです。
「自己責任で行うのには問題がない」と言うのは、裏返せば、本人の選択である以上、もし、万が一何か健康上の問題やエイズウイルスに感染したとしても、自己責任なのだから、あなたが責任を取るということです。
極端な話を敢えて致しますが、例えば、HIウイルスを見て、「あ!このウイルス、6月4日に新宿二丁目のラブホテルでやった男の精液に含まれていたエイズウイルスと同じものです!!」なんて、言えますか?
仮に、「サイトを信じてPrEPしたのに!」と、何か問題が生じたときに訴えても、「そのエイズウイルスにいつ、どこで、どういう行為をしたから感染した」ということを証明することが出来ないのですから、「あなたの自己責任です」で終わってしまうのです。
そして、PrEPの購入は、あくまでも使用する人が自分の意思で手配するのですから、国への救済制度も求められません。
あなたがもし、腎臓など身体に致命的な障害が残ったり、エイズウイルスに感染した場合に
「情報は確かに提供しましたが、勧めてはおりません。PrEPをすると決めたのは、あなたでしょう?あなたの責任ですよ。私たちの責任ではありません。」
と言われて、納得できるでしょうか。
私だったら、悔やんでも悔やみきれないことでしょう。
一方、絶対に、なによりも大切なことを、考えなければいけません。
PrEPをしてまでするSEX(性的接触)って、いったい何なのでしょうか。
PrEPをするのが望ましい人について、こんな紹介が載っていました。
エイズウイルスに感染していない人で、以下のどちらかにあてはまる人
コンドームの使用が難しかったり、使用できないことが多い人
コンドームと併用しながら、さらに感染リスクを下げたい人
最近、性感染症(特に直腸の感染症や梅毒など)にかかった人
最近、PEP(曝露後予防)を利用した人
性行為の際に薬物(クリスタルメス、メフェドロン、GHB)を使用している人
エイズウイルス陽性者のパートナーが、治療薬をしっかりと服用していないという人
こういう例が挙げられているのですが、これを読んで、特に違和感なく、普通の感覚で受け入れられるのであれば、あなたの性が乱れていることを自覚したほうが良いと思います。
世の中に、例えば、エイズウイルスに感染した人が服用する薬を飲んでまで、コンドームを付けずにSEX(性的接触)をしたいと思う人は、ほとんどいません。
それを世間では、変態、色狂い、異常性愛者と言い、軽蔑するのです。
どうか、考えてほしいのです。
PrEPをするかどうかは、あなた自身の選択に掛かっています。あなたが選択するのです。
PrEPを推奨している人、団体はありません。紹介しているに過ぎません。是非を判断するのはあなたです。
あなたが、自分の意思で、抗HIV薬を購入するのです。
そしてあなたが、自分の意思で、抗HIV薬を服用し、SEX(性的接触)をするのです。
PrEPをしても、エイズウイルスに感染するかもしれません。
PrEPをしたら、ひどい副作用にあい、健康な体に戻れなくなるかもしれません。
PrEPは、治療や予防ではなく、治験・臨床実験です。
PrEPをすることが目的ではないのです。
PrEPをすれば、何をやってもいいということではないのです。
エイズウイルスに感染し、AIDSで亡くなっていった大勢の人々がいることを、思い出して欲しいのです。
代えることのできない命を、そして身体をどうか、大切にしてください。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
(2020年6月6日・9月17日修正)